近年中小企業でも聞くようになった「DX」という言葉。
「デジタル化が必要!効率化が必要!」と巷では言われていますが、本当に高い費用をかけてまで行う価値はあるのでしょうか?
IT業界7年、DX・IT業界でエバンジェリストとして活動する筆者が、そんな疑問について検証していきたいと思います。「デジタル化は本当に必要なのか?」という疑問に答えるために、「DX化をすると起きる未来」「DX化をしないと待っている未来」の両方を記載して比較しています。
今回の記事では「DX最高!」という話をつらつらと書いていくつもりは全くございませんのでご安心ください。
DX化が必要な理由①競合企業に人を奪われる
2023年時点でも介護・医療・ITを始めとして求人倍率は高く、企業の採用難易度は高まり続けています。さらにこの傾向は続いて2030年には約650万人の労働人口が不足すると言われています。このトレンドの中で、労働力である従業員の奪い合いが起きることはほぼ必ず起きると見て間違いないでしょう。
そこで従業員の採用・定着の重要度が現在にも増して急速に高まることが予想されています。
採用DXの必要性
そんな中で、採用DXが重要になってきます。採用DXをすると何が起きるのか。
採用システムが入っていることによって、システムから候補者に適切なタイミングで適切なフォローアップができるでしょう。また、LINEを活用して若年層の候補者と繋がることができればより密度の濃いコミュニケーションが可能なるでしょう。
これが採用DXができていないとどうなるか考えてみましょう。紙や担当者のエクセルで管理をしていることで、適切なフォローアップができていない間に、DX化で武装した競合他社に候補者を取られるかもしれません。特にZ世代が嫌うと言われている電話で何度も自社が連絡している間に、他社との話はLINEでどんどん進んでいるかもしれません。
このように、「採用DXを行わない」ということはすなわち「競合企業に人を奪われる」ということに直結します。
定着DXの必要性
定着のためのDXというと幾つか解決策やジャンルがあるのですが、ここでは「多様な働き方を支える働き方改革のためのDX(主に人事労務DX)」を例にお話しします。
というのも、先述したようにこの先の日本は急激なペースで労働人口が減っていきますので、定年後のシニア層や働きたい女性のパートタイムでの働き方など多様な働き方が当たり前になってくる見込みです。さらに、労働力不足のペースの進行具合では完全に働く労働者側が企業を選ぶという時代が来る時代も考えられます。
さて、「働き方改革のためのDX」が進んでいるとどのようなことが起きるでしょうか。例えばクラウド勤怠のスマホやPC打刻ができる環境とZoom導入などで週の一部はリモートでも働ける環境を準備しておくことで、各従業員のライフスタイルに合わせた働き方をサポートできる可能性があります。勤怠関連や有給関連の確認を使い慣れたスマホ1台あればできるようになるなら、従業員にとっては多様なライフスタイルと仕事の両立をしやすくなるでしょう。
これが「働き方改革のためのDX」が進んでいないと何が起きるか考えてみましょう。毎日とは言わずとも、週に1回でもリモートワークを行う体制が整っていない。有給を取得する際は毎回紙を書いて提出するので上司と顔を合わせて提出することになるということになります。
人手不足の深刻化が進むほど従業員側からすると職場を選べるようになりますので、より良い環境を求めて転職活動を始めてしまうかもしれません。採用DXよりは直接的な差はつかないので、ここは各社の状況に応じて対応していくのが良いでしょう。
DX化が必要な理由②AIを使いこなす企業に負ける
さて、来ましたAIです。AIヤバいという話はもう連日のようにネットで流れているので、またAIか!となっている方も多いと思いますが聞いてください。
「AIを使いこなす企業に負ける」とはどういうことなのか。
前提:AIの重要な3つの要素
このトピックを理解する前に、AIの重要な3つの要素の理解が非常に重要になるので解説させてください。ちょっと学術的になりますが、この後の内容を理解する上で重要なので是非読んでみてください。
AIの重要な3つの要素は以下の3点です。
- ①ハードウェアの性能
- ②アルゴリズムの精度
- ③データの精度
なぜこの3点を解説したかというと、①②は実はもう大体みんな同じ物を使うことになりそうなんですよね。
①のハードウェアはNVIDIAやAWSのハードウェアを利用することが多いですし、②のアルゴリズムは最も有名なものがお馴染みのChatGPTです。
どれもアメリカのサービスですが、もうとんでもない金額を投資して世界中の優秀なエンジニアが日々改良に改良を重ねているので、①②はおそらく皆んなが同じ(最も良いスペックのものを)利用することになりそうです。
そうなると差がつくのが③のデータです。ここでDXの話と繋がってくるわけですね。小さくでもコツコツと従業員の情報(これまでの経験や勤怠情報や評価情報)や顧客接点の情報を一箇所に集めたりデジタルで管理していた企業は、この③のデータがある程度存在することによってAIのパワーの恩恵を受けることができるようになります。
AIパワーの恩恵とはなんぞやということで、ここからは見ていきたいと思います。
AIパワーの例①従業員情報×AI
例えば、小さくでもコツコツと従業員の情報(これまでの経験や勤怠情報や評価情報)をDX化してデータとして残していた企業はAI化でどんなメリットを受けることができるのか。
現在海外ではAI面接官による採用というものが始まっておりまして、AIでの面接や求職者が事前に収録した動画情報をAIで解析することによって、「この人物は入ってから活躍するのか、すぐ辞めないか」などの人事評価をAIが自動で行う面接方法なども始まっているんですね。
この方法を使うと、「これまでは面接官の主観で行なっていた、ある程度入ってみないとわからない運要素があった採用」から、「人間の主観を排した仕組み化された、入社後の活躍データから逆算した質の高い人材採用」に変革することが可能になります。さらに、ある程度の部分までAIが自動でスクリーニングをしてくれるため面接官の業務負荷を下げつつ、採用の質は上げることが可能になりかなりメリットは大きいです。
ただし、この「人間の主観を排した仕組み化された、入社後の活躍データから逆算した質の高い人材採用」というのも、AIに「過去こういう人が活躍したよ」「過去こういう人が辞めていないよ」というデータを渡すことによってはじめてAIが学習をして実現することができるので、従業員の情報がデータとしてしっかりと残っていればいるほどAIの精度を高めることができるのです。
このように、DXを放棄するということは、きたるAI時代において最も大きな差分になるであろう③のデータがないという状況を招きます。
競合他社がDX化で集めたデータで、「入社後もパフォーマンスの高い見込みが高く」「辞める見込みは低い」人材をガンガン見極める精度の高いAI面談で良い人材を取って行かれると考えると、DX化をしないデメリットは大きいのではないでしょうか。
AIパワーの例②顧客体験・顧客接点×AI
こちらも例えば、顧客接点の情報を一箇所に集めたりデジタルで管理していた企業はどのようなメリットを受けることができるのか見ていきましょう。
現在でもマーケティングツールを入れておけば、どんな資料をダウンロードして、どんなページをいつ何回見たかをデータとして顧客情報に紐づけておくことが可能です。
ここまでは現在のDXと何の変化もありません。ここにAIパワーが加わることによって何が起きるでしょうか。
まずは顧客へのアプローチのパーソナライズ化が急激に進むでしょう。ユーザの起こした資料ダウンロードやページ閲覧の行動ごとにパーソナライズ化された最適な対応をAIが自動的に文章を生成して行うことが予想されます。
この、「パーソナライズされた最適な対応」の精度も顧客に関する情報がAIが理解できるデジタル上のデータとして多い方がもちろん精度が上がります。各個人の頭の中はもちろん、紙や名刺ファイルの中にあるアナログのデータをAIは理解することができません。さらに、早くからDX化を行なっておけばお客様の行動履歴(閲覧資料や閲覧ページなど)をたくさん蓄積することができたのに、DX化を行わないことでその期間の機会損失が発生します。
ここでも、強いAIパワーが顧客への最適なパーソナライズされたアプローチに繋がります。顧客は自身にパーソナライズされたアプローチを適切なタイミングで行う企業と、そうではない企業のどちらを選ぶでしょうか。
自社がDX化を行なっておらず、競合だけがコツコツと早いタイミングからDX化を行っている状況は大きな機会損失を産み出すでしょう。
DX化が必要な理由③意思決定の速度と精度で負ける
最後に3点目はDX化している競合に意思決定の速度と精度で負けるという点です。
これはどういうことなのか、デジタル化を進めていくと全ての情報がデータとしてオンライン上に乗ってきます。そして、さらにDX化を進めるとそれらのデータを統合して一箇所でリアルタイムに見えるようになります。
営業管理システムや、クラウド会計システムやクラウド分析システムを利用し、DXに対応したオペレーションで日々従業員から情報を吸い上げている企業はリアルタイムに経営状況が見えているため、スピード感を持って正しい経営の意思決定を行うことができるでしょう。
一方、DX化に取り組んでいない企業はどうでしょうか。紙やエクセルで管理している情報を毎月月末にまとめるため経営状況が見えるのに時間がかかる、せっかくまとめた情報にミスがある、集計担当が辞めてしまって現場が混乱している、などの状況が起きることが考えられます。
このように、DX化を行わないということは、DX化で武装している企業に対して意思決定の精度でも速度でも負ける可能性が高まります。
まとめ:中小企業にDX化は本当に必要なのか?
中小企業のDX化が必要なのか、本当に費用対効果を考えてもやるべきなのかについては、この記事を読んで皆さんに判断いただければと思います。ただ、個人的には①の「圧倒的に加速する人手不足」②の「AIパワーを決めるのがDXで集めたデータになる」という点は、今後かなり重要なポイントになっていくと思います。
今からコツコツとDXに取り組んだ企業は①②の両面において恩恵を受けることのできる可能性が高いのではないかと考えています。
とはいえ、DX最高!と思っているわけではございませんので、上記の記事をご覧いただき皆さんの会社でDX化を行うことが費用対効果が合うのかを考えていただければと思います。
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